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野菜不足を知らない町長野県

平均寿命が男女共にトップクラスの長野県。実は野菜摂取量も男女共に1位。
そんな長野県でお話しを伺ってまいりました。

地元農家の野菜や果物をふんだんに使った
「生アイス」

 長野市上駒沢にある、つくりたて生アイスの店「ふるフル」。地元農家の野菜や果物をふんだんに使った「生アイス」は、週末や夏休みには駐車場に入りきれないほど多くの人が詰めかけるほどの人気を博しています。

生アイス

オーナーの岡田浩史さん、珠実さんに「生アイス」のこと、これからのこと、そして、健康法について聞きました。

岡田様ご夫婦

株式会社フル里農産加工 岡田浩史様、珠美様ご夫妻

 オーナーの岡田浩史さんに、「生アイス」の店を開業した経緯を尋ねたところ、こんな答えが返ってきました。

「もともとはヘーゼルナッツを国産化し、それを6次産業化することが目的だったんです」

イタリアの調理機器などを取り扱う輸入商社に勤めていた浩史さんは、イタリアと日本を行き来するなか、ヘーゼルナッツの国産化を考え始めます。もともと独立するつもりはなく、会社を定年まで勤め上げるつもりだったのですが、冬のトリノで、雪の中ヘーゼルナッツが元気に実っているのをみて、

「ヘーゼルナッツを長野でもつくることができるのではないか」

と思い至ったのだそうです。

岡田様

「長野には、りんごに続く、新しい作物を考えることが必要ではないかと常々考えていました。そこで、近所の農家さんにヘーゼルナッツを育ててみたらどうかとお話ししたのですが、みなさん、『はあ?』といった感じで(笑)、なかなか手をあげてくれません。それなら仕方ない、自分でやろうと国内で手に入るヘーゼルナッツの苗を100本ほど購入し、植えることにしたんです」
独立はあくまでもヘーゼルナッツの国産化を実現するため、また、生アイスの店を開業したのも、ヘーゼルナッツがきっかけだったと言います。

ヘーゼルナッツ

「ヘーゼルナッツは結実するのに時間がかります。その間、ずっと投資をしていかなければなりません。そこでなにか原資になるようなものをと考えました。

周りの方に喜んでもらえて、健康にもよく、絶対に失敗しない──

そんなビジネスを考えていたときに、思い至ったのがアイスクリームです。16歳から数年アイスクリーム屋でアルバイトをしていましたし、前職の輸入商社で食品加工の勉強やアイスクリーム店の立ち上げに携わっていて、アイスクリームとは40年以上関わりがあります。その経験を活かせると思いました」

ふるフル

 アイスクリームと一口に言っても、「ふるフル」で製造・販売しているのは、鮮度にこだわった「生アイス」。

「生アイス」とは、一度も冷凍しないアイスクリームのことで、賞味期限は購入当日のみ。地方発送も行っていません。

「鮮度をとても大切にしていて、牛も飼いはじめました。前の晩に搾った乳をその晩のうち、もしくは次の日の朝に低温殺菌してアイスを作っています。果物、野菜の生アイスは乳製品不使用。果汁と糖類だけで水もほとんど使いません。素材そのものの味がお楽しみいただけます」

 作り置きは一切せずに、その日に製造しその日のうちに販売するというのが、「ふるフル」のスタンス。

「生アイスの欠点は、その性質上、劣化が早いこと。毎日、新鮮なアイスを手作りし、なくなったら新たに作ります。本来、アイスクリームづくりというのはベースがあり、そこにものを足していくスタイルが主体ですが、私どもでは基本のベースは作らず、メニューごとにベースを変えています」

ショーケース

 ショーケースには平日で9種類前後、週末にはもう少し多い種類のフレーバーが並びます。素材には、地元農家でとれた、旬の野菜、果物を積極的に使用。しぼりたて牛乳、ヘーゼルナッツ、紅ほっぺ(いちご)、リンゴ、むらさき芋、安納芋など、季節や仕入れによって内容は変わります。いつ足を運んでもどれをいただこうかと悩むこと必至の魅惑的なラインアップが展開されています。レパートリーの数は100種類以上にのぼり、たとえば、かぼちゃだけで5種類のバリエーションがあるそうです。

ショーケース

妻の珠実さんは、浩史さんが脱サラし、起業する旨を聞いたとき、

「びっくりしました。当時、娘はまだ学生でしたし、学費を稼いでもらわなければなりませんでしたから。最初は反対しましたが、開き直りました(笑)」と言います。
生アイスづくりは浩史さんの担当ですが、販売を行っているのは珠実さん。また、新たな生アイスを店頭に並べるには、珠実さんの許可が必要なのだそうです。
1日に何度も試食することがあるそうですが、もたれないのも「生アイス」の特徴。遠くからいらっしゃるお客様の中には、5個6個と買って、その場で食べられる方もいらっしゃるそうです。

 事業を起こすきっかけとなったヘーゼルナッツの栽培は、今年で5年目を迎えました。

ヘーゼルナッツ

「主にお店の裏の畑で育てています。だんだんと収穫量も増えてきたので、今年は世界最高峰といわれる、ピエモンテのヘーゼルナッツの苗木を輸入しました。国内で消費されるヘーゼルナッツはほとんど輸入に頼っていて、値段も年々高騰しています。必ず需要はありますし、とても育てやすい植物です。最近は、近所の農家さんもヘーゼルナッツに興味を持ってくれて、栽培してくれる人も増えてきました」。

現在、「ふるフル」では、へーゼルナッツを使った「はしばみ(ヘーゼルナッツの和名)菓子」の販売も行っています。

ヘーゼルナッツのお菓子

「ヘーゼルナッツを加工して作るチョコレートやスプレッドは真空冷却高速粉砕製法で製品中に空気を入れずに酸化を防いで作りますし、減圧低温濃縮製法で作る生ジャムは果物になるべく高熱をかけずに低温沸騰させて水分が蒸発するので、果物本来の持つ色や香り栄養分を残しながら作ることが可能なんですよ。」

ひとつひとつの事業を楽しそうに話してくれる浩史さんですが、繁忙期には朝3時から仕込みを行うこともあるとか。
そんな浩史さん、そして、珠実さんに健康法を聞いてみました。

浩史さん:「野菜やきのこ類を積極的に摂っています。このあたりはきのこもよく採れるんですよ。お酢を炭酸水で割って飲んだり、よくスムージーも作っています。小松菜とバナナが定番です」
珠実さん:「近くの養蜂園でとれたハチミツを炭酸水で割って飲んでいます。長野という土地柄、野菜をいただくことも多いので、常備菜のようにしていただくこともあります。野沢菜も欠かせません(笑)。伊藤園さんの野菜飲料も好きです」

最後に、アイスを溶かすほどのホットなエピソードを。
おふたりは40余年の付き合いになるそうですが、

浩史さん:「妻の印象は出会った18歳の頃のまま。ずっと一緒にいても飽きることはありませんし、ひとつも嫌いなところはありません」
「基本的には僕が悪いので」
と、夫婦喧嘩に発展したことは一度もないそうです。
「会社員時代は年に200日は出張で、子育ては妻に任せきりでした。妻には感謝しかありません」

年々収穫量が増えているヘーゼルナッツ、そして、多彩なバリエーションを誇る「生アイス」。仲睦まじいおふたりが営む「ふるフル」は、思わず笑顔になるような、「美味しさ」がいっぱいです。

ふるフル

つくりたて生アイスの店ふるフル 長野県長野市上駒沢920 TEL:026-251-3334

減塩、野菜・栄養摂取で長寿に

吉川様

長野県健康福祉部健康増進課 課長補佐兼食育・栄養係長 吉川さなえ様

 健康づくりは一朝一夕ではいきません。長年の取り組みが少しずつ成果を表しています。

長野県では昭和40年代から50年代にかけ、脳血管疾患の死亡率が高かったことを受け、「成人病に対する食生活の実態調査」を行いました。その結果、高血圧者のいる家庭とそうでない家庭の味噌汁の塩分をはかったところ、高血圧者のいる家庭のほうが塩分の量が多いことがわかりました。また、昭和55(1980)年の栄養調査では全国平均1日13.0gのところ、長野県では15.9gの塩分を摂取していたという結果もあり、昭和56(81)年に、県をあげての「県民減塩運動」をスタートしました。食品業者やマスコミとも協力し、「減塩教室」の開催や「減塩パネル」「減塩カレンダー」の作成・配付などの啓発活動を実施しました。

その結果、昭和58(83)年には塩分摂取量は1日11gまで減少しています。

図表

そうはいってもまだまだ長野県民の塩分の摂取量は高く、平成28(2016)年の「国民健康・栄養調査」では、男性が11.8gで全国3位、女性が10.1gで全国1位の食塩摂取量です。ただ、減塩という意識が県民に浸透したのは大きいと思います。また、3年に1回、栄養調査を行い、その結果から県民の食生活を見直し、次の対策を立てていくという取り組みも功を奏しているのではないかと考えています。

それでも長寿である要因のひとつは、やはり野菜の摂取量の多さにあると思います。

図表

※熊本県は未実施
出典:平成28年国民健康・栄養調査報告/年齢調整値

平成28(16)年の「国民健康・栄養調査」では、野菜の摂取量は男女ともに長野県が1位です。農家以外の方でも家庭で野菜を作っている方が多いことやもらった野菜を食べているという方が多いのではないでしょうか。その半面、食べきれない野菜を浅漬けにしているため、塩分の摂取量が多くなっているという側面もあるのですが......。
量だけでなく、長野県はすべての栄養素が全国平均以上に摂れているというデータもあります。

塩分は多いのですが、特別何かを食べているというのではなく、すべてのものをバランスよく食べているというのが大きいのだと思います。私も食事は主食と主菜と副菜は組み合わせていただくようにしています。

また、平成27(15)年3月に「長野県健康長寿プロジェクト・研究事業」として、健康長寿の要因をまとめました。減塩運動などの健康に関する長年の取り組みはもちろんですが、そこで挙げられている要因のひとつとして、県民ひとりひとりが健康への意識が高いため、社会活動への参加が積極的だということがあります。たとえば、長野県は、就業率、高齢者の就業率、ボランティアの参加率が高く、保健師の数も全国上位です。こういったことも長寿の要因の一端ではないかと分析しています。

吉川様

現在、長野県では、健康長寿をさらに前進させるための健康づくり県民運動

「信州ACE(エース)プロジェクト」

に取り組んでいます。長野県は平均寿命が男女ともにトップクラスですが、世界一の健康長寿を目指すべく、健康長寿をさらに前進させていこうという、平成26(14)年からスタートした取り組みです。プロジェクト名は公募によって付けられたもので、ACEというのは生活習慣改善の重点項目、

Action(体を動かす)
Check(健診を受ける)
Eat(健康に食べる)

の頭文字から取っています。

Actionは、自分たちの生活のなかで、なるべく体を動かす努力をしようという意識。
Checkは、家族揃って健診に行こうという推奨。
Eatは、1日350gの野菜を摂取するなど健康的な食生活を意識しようということ──。

この3つの活動を通して、世界で一番(エース)の健康長寿を目指したいと考えています。

 今後の課題はやはり塩分摂取量の多さ、男性の肥満が増えてきているのは気になるところです。また、50代の野菜の摂取量が懸念されるところですね。若い頃の食生活が年配になるまで影響しているかもしれませんので、若い世代への食育も大切だと考えています。

知識や経験を活かした「挑戦」で元気

戸田様

公益社団法人 長野県長寿社会開発センター 主任シニア活動推進コーディネーター 戸田千登美様

 長野県の人にとって、野菜を食べるのは特別なことではないんです。

とくにシニアの方はひたすら野菜を食べている印象があります。一種類の野菜をさまざまな調理法でいただく方も多いですね。もともと長野県自体が肥沃な場所ではないですし、海もありません。
昔から野菜中心の食生活が当たり前のように根付いていたのではないかと思います。
ひとつの野菜をいろいろな調理法でいただく習慣も、そんなところに起因しているのではないかと思います。

高齢な方でも自分で野菜を作り、野沢菜を作る生活をしている方がたくさんいらっしゃいます。野菜の摂取量が多いのはやはり作っている方が多い、というところから来るのではないでしょうか。腰を曲げながら、一生懸命畑仕事をしているシニアの姿を見ていただければ、長野県の長寿の要因は一目瞭然かと思います(笑)。中山間地で一人暮らしをしているシニアも多く、「雪が降って家に閉じ込められると大変ではないですか」と聞くと、家にいろいろな食材を備蓄しているからなんでもないとおっしゃいます。たくましいです。

野菜が豊富だなと感じるのはとくに夏場ですね。どの家庭でもトマト、なす、きゅうりなどの夏野菜を持てあましてしまうんです。「トマト、自由にお持ちください」などと、コンテナーになすが置いてあるのをよく見かけます。北信地域(北信地方の中野市、飯山市を中心とした地域)には、きゅうりやなすなど余った野菜を約1センチ角に刻み、みょうがや大葉、漬物など合える「やたら」という郷土料理もあるんですよ。冷ややっこやごはんにかけていただきます。

資料

私ども長野県長寿社会開発センターでは、シニア世代が培ってきた豊富な知識や経験を活かして社会参加活動を行う「人生二毛作社会」の実現を重点政策に掲げています。そのために、

「意識づくり」
「人づくり」
「仲間づくり、健康づくり」
「コーディネートの仕組みづくり」

の4つを事業の柱とし、何かをしたい、何かを始めたいと思っているシニアの方に、さまざまなことを提案させていただいています。たとえば、「人づくり」で力を入れていることのひとつに、おおむね50歳以上の県内在住者を対象とした、「長野県シニア大学」というものがあります。10学部あり、1年間1万円で受講できます。

戸田様

よく他県の方から「長野県はシニアが元気だ」と言われますが、

「健康の秘訣は目的意識を持つこと」

にあると感じています。これが長寿につながっているというデータも出てきています。小さなことで構いません。

自分のことだけではなく、外に目を向けるのはとても大事です。
小さなチャレンジでもいいので新しいものに目を向けること──。

ずっとお米を作っていたけれど雑穀にしてみたとか、ずっとピーマンを作っていたけれどパプリカを作ってみるとか、ボランティアに参加するとか、決して大きな挑戦でなくていいんです。新しいものに目を向け、挑戦したいと思えるのは元気な証拠。健康・長寿を目指すなら、新しいことに触れる機会を積極的に作っていくのはとても大切なことです。70歳になっても、80歳になっても人は変わることができるのですから。

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