ドクターズアドバイス 自分では気づきにくい

体の不調は「うつ」のサイン!?
心の健康にも目を向けよう!

この先生に聞きました
国立長寿医療研究センター 精神科部長 安野史彦(やすの ふみひこ)

国立長寿医療研究センター
精神科部長

安野史彦(やすの ふみひこ)

大阪大学医学部卒。老年精神医学に関する研究で博士号を取得。米国精神衛生研究所研究員、筑波大学医学医療系精神医学講師、奈良県立医科大学精神科准教授、国立長寿医療研究センター精神科医長を経て、2021年より現職。日本老年精神医学会評議員。高齢者の抑うつ状態をはじめとする精神症状や、認知症に伴う精神行動面の問題に対する診療、および研究に多年、従事している。

眠れない、疲れやすいといった悩みが長く続くのは、「うつ」のサインかもしれません。
高齢者のうつの特徴と治療について、国立長寿医療研究センターの安野史彦先生に伺いました。

誰でもかかる「うつ」早めの治療が改善のカギ

 学校や職場、家庭などでのストレスが長く続くと、心身のバランスを崩して「うつ」になってしまう人がいます。うつは、強いストレスを受け止めきれずに対処できなくなった状態で、誰でもかかる可能性があるのです。

「うつ」の症状チェックリスト

  • 1 気分が落ち込む、憂うつになる。
  • 2 物事に対して興味がわかない、何事も喜べない。
  • 3 食欲がない、または食べ過ぎてしまう。体重の減少、または増加。
  • 4 眠れない、または眠り過ぎてしまう。
  • 5 焦って落ち着かず、じっとしていられない、または逆に身動きがとれない。
  • 6 疲れやすい、気力が出ない。
  • 7 自分に価値がない、自分が悪いと思う。
  • 8 物事に集中できない、決められない。
  • 9 死について繰り返し考えてしまう。

※「精神障害の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」を参考に作成。

うつは心の不調だけでなく、体の不調として現れることもあります。1〜9の症状のうち5つ以上の項目に当てはまり、ほかに原因が考えられない場合は、うつの治療を検討することをおすすめします。

高齢者のうつは、体の不調に現れることも

  うつには気分の落ち込みなど心の症状と、疲れやすい、食欲がわかない、眠れないといった体の不調がありますが、高齢者のうつの特徴は、若い人に比べて体の不調が現れる場合が多いことです。そのために、一見うつには見えないような人もいます。また、興味や意欲が低下して物事を覚えていないことがあるため、認知症と間違えられる場合もあります。ただ、認知症は症状がゆっくりと進むのに対して、うつは何かきっかけがあれば急激に悪化します。認知症には体の不調があまり出ないのも見分けるポイントです。

「うつ」と認知症の症状は似ている!?

物忘れ・判断力の低下・集中できない

物忘れや判断能力の低下など、うつとアルツハイマー型認知症の初期症状はよく似ています。ただし不眠や食欲不振、急な症状の悪化などは認知症には見られず、うつの治療をすれば回復する可能性があります。

うつを改善するには

 うつの改善には、ストレスの原因を取り除くことが欠かせませんが、病院で抗うつ剤などの薬を用いた治療を受けることもできます。

 そのほかに「認知行動療法」といって、ものの受け取り方や考え方の癖をストレスの少ないものに替えていく治療法もあります。また、日常でできる予防策としては、規則正しい生活のほか、物事を悲観的に考えないことも大事です。

「うつ」の予防と対策

  • 規則正しい生活とルーティン(日課)を作る

    1日3回の適当な歯磨きより、1日1回の丁寧な歯磨きのほうが磨き残しは少なくなります。就寝前などに5〜10分かけて隅々までしっかりと磨きましょう。

    ※ルーティンとは?

    決まった手順や日課などのこと。毎朝体操をするなど、行動を習慣化することをおすすめします。

  • 身だしなみを整える

    心や気持ちをコントロールしようとするのではなく、髪型や服装など自分の意思で変えられるものに目を向けてみましょう。達成感が得られ、心の安定につながります。

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  • ネガティブな考えを置き換える

    強いストレスが長く続くと、物事を悲観的に捉えがちです。ネガティブな考えが浮かんだら反論を思い浮かべることで、悲観的に考える癖を修正していきましょう。

早めの治療が改善のカギ

 うつは早く治療を開始することで、状態を改善しやすくなります。特に生活習慣病がある人はうつになるリスクも高いため、本人はもちろん家族の人も日頃から心身の変化に注意し、気づいたことがあれば、早めにかかりつけ医、もしくは心療内科などに相談することをおすすめします。